活動仮想と現実が交錯する大橋キャンパス植物ゲーム2023.10.3

研究責任者:芸術工学研究院 准教授 平松千尋
キーワード:植物、ゲーム、大橋キャンパス


 住宅街にある小さな九州大学大橋キャンパスの構内では、多種多様な植物が静かにキャンパスライフに彩りを添えている。多くの植物は緑地環境の専門家よって地域の特性や美観を考慮して計画的に配置されており、これらの植物を訪れる鳥たちによる種子散布により適度な攪乱を交えながら小さな生態系が形成されている。大橋キャンパスの植物の多様性は、野山に行かずともキャンパス内で生物の多様性を体験できる格好の環境である。しかし、キャンパスを訪れる多くの人々にとって、これらの草木はひとくくりの単なる「植物」として認識されがちではないだろうか。

 2020年度よりスタートした未来構想デザインコースでは、キャンパス内で身近な生物の多様性を観察し、DNAレベルで生命が多様性を生み出す仕組みや生命同士のつながりを学ぶ授業を取り入れている。図1は、個々の植物の葉緑体が持つ、光合成における二酸化炭素固定で重要な役割を果たすルビスコ遺伝子のDNA配列と、DNA配列の違いから得られた植物同志の関係性を示す系統樹である。このような授業を通して、キャンパスで共存する普段見過ごしがちな身近な生命体への解像度を上げ、生命のつながりに対して意識を向けることで、多様な生命が共生する仕組みの構想やデザインのヒントを得ることを目指している。

図1.キャンパス内の植物から得られたDNA配列(左)と系統樹(右)

 同時に、より多くの人々に身近な植物に親しんで楽しんでもらうため、未来デザイン学センターに関連する企画として、キャンパスの草木が織りなす現象を仮想空間で楽しみながら体験できるゲーム、大橋キャンパス植物ゲームを計画した。ゲームの企画・制作には、未来構想デザインコース、メディアデザインコース、音響設計コースの有志学生が参加し、緑地環境保全を専門とする朝廣和夫先生、ゲーム制作を専門とする松隈浩之先生らからアドバイスをいただきながら、未来デザイン学センター、および農学DX事業の支援を受け実施している。

 まず、朝廣先生にキャンパス内の植物を詳しく紹介いただいた。数々のそれぞれの植物にまつわる逸話から、個性的な植物キャラクターが生み出された。例として図2に示すのは、秋にキャンパスに芳香を漂わせてくれるヒイラギモクセイの葉からインスピレーションを得て、ギンケイという鳥と掛け合わせてできたゲーム内で活躍する架空のキャラクターである。

図2.ヒイラギンケイ

 その他にも、実際のキャンパスでも建物を覆うツタがゲームで重要な役割を果たしている(図3)。また、大橋キャンパスにある芸術工学部の5コースを象徴する色をまとった主人公が、お祭りの開催を目指してキャンパス内を奔走する予定である(図4)。

図3.ツタに覆われた大橋キャンパス

図4.ゲームの主人公

 お祭りの開催を目指すというゲームの目的には、芸術工学部や福岡の特性が反映されている。現在、近い将来の公開を目指して作成中である。ゲームが完成した暁には、是非世界観を楽しんでいただきたい。そして、実際に大橋キャンパスを訪れる機会があれば、現実世界の植物に目を向け、一見静謐だが実は活気のある多様な草木間模様を体感していただきたい。


本研究は令和4年度未来デザイン学センター少額研究助成を受けたものです。