活動ポータブルヘルスクリニックサービスのための道具運搬用容器のデザイン試作2023.10.3

研究責任者:芸術工学研究院 准教授 秋田直繁
キーワード:遠隔予防医療,ヘルスケアデザイン,プロダクトデザイン


 ポータブルヘルスクリニック(以下PHC)とは,九州大学のシステム情報科学研究院のアハメッド・アシル先生や九州大学病院メディカル・インフォメーションセンターの中島直樹先生やラフィクル・イスラム・マルーフ先生らによって構成される研究チームとバングラデシュ・グラミングループが共同開発した遠隔予防医療・健診サービスを提供するシステムである.

 PHCは,保健医療サービスが十分に行き届いていない発展途上国の農村部の住民にサービスを提供するために,健診スタッフは各種の測定装置と携帯電話のネットワークによるインターネット接続機能を備えたタブレットPC端末等を収めたアタッシュケースを現場に持ち込み,健診を行う.そして,測定した生体情報や病状履歴をタブレットPC端末に入力し,オンラインのデータベース・システムの分析により健診結果をサービス利用者に提示する.

 本プロジェクト「PHCのための道具運搬用容器のデザイン試作」は,アタッシュケースに5kg以上の道具を入れ,健診スタッフが歩行,及び自転車やバイクに乗り,農村部を移動している厳しい現状を改善すべく,上記の研究チームから道具運搬用容器のリデザインを研究テーマとして提案していただいたことが機会となり,実施された. 

 まず,PHCの既存の道具運搬用容器の使用状況や課題を把握するために,研究チームのマルーフ先生にヒアリング調査を行った.その結果,自転車やバイクによる移動の際に既存のアタッシュケースは持ち運びにくいことや防水性に欠けているなどの課題が明らかとなった.さらに,サービス運用者の視点から次の18個のニーズを抽出することができた(表1).

表1:既存のアタッシュケースの改善ニーズ

 次に,ヒアリング調査の結果より,特に重要であるデザイン要件を「防水性がある」「道具の出し入れが簡単」「持ち運びしやすい」「バイクや自転車移動に適していること」の4つに設定し,研究室のメンバー(西村陽平氏,蒋ガイ文氏,加治幸樹氏,川窪海聖氏)と共にアイデア展開を行った.そして,それらのアイデアの中から「既製品のバックパックとその中に収める新しいインナー容器を組み合わせる案」を採用し,プロトタイプを製作した(図1)(製作協力:大学院芸術工学府 教務職員・藤田絃生氏).

 本プロトタイプの主な特徴は以下のとおりである.アタッシュケースとは異なり,既存のバックパックを用いることで,荷物を背負い自転車やバイクに乗りやすく,両手が自由になることを実現した(図2).また,防水性が高い既存のバックパックを採用した.一方で,インナー容器は,持ち手となるアルミフレームの内側に2つのトレーを上下方向に配置してデザインした(図3,図4).内容物を十分に保護するような強度があり,狭い場所であっても安定して設置することができる形状を検討した.また,複数の道具を適切に配置し,見つけやすく,取り出しやすいように,トレーやその付属品の形状を工夫した(図5,図6).利用頻度が低いバッテリーや替え部品は下トレーの中蓋の下に収納できる.更に,下トレーの底は角をなくした形状とすることで,バックパックに挿入しやすく,全体の形状が丸みを帯びた優しい印象になるようにデザインした(図7,図8).

 今後は,より軽量で容器の内容物が見えやすく,低コストで作れるように改良し,ユーザーによる評価実験を行う予定である.


本研究は令和4年度未来デザイン学センター少額研究助成を受けたものです。