活動『フォスタリングカードキットTOKETA』の社会実装プロジェクト2023.10.3

研究責任者:芸術工学研究院 講師 田北雅裕
キーワード:コミュニケーションデザイン、里親、子どもの権利


 昨年(2021)度、日本財団および子どもの家庭養育推進官民協議会、そして、大阪のデザイン事務所UMA/design farmと協働し、「フォスタリングカードキット『TOKETA』」を企画・制作した。TOKETAは、里親家庭で暮らす里子や実子、そして、これから里親家庭で暮らす子どもたちが里親家庭を理解すると共に、不安を解消するためのカードキットである(図1)。近年、里親の普及や理解を促す大人向けのパンフレット等は増えてきたが、肝心な子ども向けの媒体が国内に存在しなかった。そこで、日本財団からデザインの依頼があり、制作したものである。今年度は、キットの社会実装を目指し、昨年度制作したものをさらにブラッシュアップし、9月に一般社団法人福祉とデザインが発行元となり、販売開始をすることになった。本プロジェクトは、そのために必要な調査とデザイン実践に取り組むものである。

 まず、人間環境学府・統合新領域学府・教育学部の学生4人と共にTOKETAの内容を分かりやすく伝えるための紹介動画制作に取り組んだ。TOKETAの魅力を端的に伝えるための構成・ナレーション・時間等を検討し、映像制作会社である株式会社ランハンシャと協働しながら、制作した(図2)。次に、今後のキットおよび広報のデザイン方針をユーザー視点から見出すために、購入者アンケートおよびインタビュー調査を実施した。発売して間もないこともあり、現時点では回答者は少ないが、使い方を理解するのに時間がかかる点やその使用方法を支援者側が熟知する必要がある点、そして、カードの判別のしやすさ等の表現の課題等が明らかになり、デザインに関する方針の一端が見出せた。

 以上のアンケート結果等を踏まえつつ、TOKETAの意義やその使用方法を広めていくために学生と共にイベントを実践することにした。具体的には、全3回のイベント企画(図3〜図5)を行い、3月3日時点で2回を実施した。1回目は、里親家庭の実子として暮らした経験を持ちながら、研究者でもある大妻女子大学准教授の山本真知子氏を招いて、「TOKETAって何だろう?~TOKETAを通して里親家庭を知る~」というタイトルで1月24日にオンラインで開催した。多様な参加者38名が集まり、TOKETAが里子だけでなく、実子も共にそのユーザーと想定した意義について、共有できた(図6)。今回のイベントは、TOKETAの理解においても重要な内容を含んでいるため、録画映像を編集し、アーカイブ公開をしていく予定としている。2回目は、「子どもアドボカシーとデザイン」と題して、ゲストにデザイナーの中川たくま氏を招いて開催した。中川氏は、昨年度、福岡市の社会的養護の子どもたちを対象にした「子どもの権利ノート」のデザインに携わっている。そのデザインで大切にした視点を共有しながら、児童福祉法の改正等で制度的にも重要な位置付けになってきている「子どもアドボカシー」とデザインとの関係について深めていった。参加者は、保育士、教師、デザイナー、児童福祉施設職員、アドボケイト、里親、社会的養護経験者、学識者、学生等、78名が参加し、領域を横断しながらデザインを深められる機会となった(図7)。3回目は、TOKETAを共に企画制作したUMA/design farmの原田祐馬氏・高橋めぐみ氏らをゲストに迎え、「福祉とデザイン」をテーマに3月15日に開催予定である。以上の全3回を通して、TOKETAとデザインの意義を様々な領域の人たちと共有することを目指してきた。今回の実践を活かし、今後もTOKETAおよびTOKETAを通じた子どもの支援システムの社会実装を進めていきたい。

本研究は令和4年度未来デザイン学センター少額研究助成を受けたものです。