活動焚き火の脳科学研究2023.9.19

研究責任者:基幹教育院 准教授 岡本剛
キーワード:屋外環境、快適性、脳波


 報告者が「焚き火の脳科学研究」(以下、本研究)に取り組むきっかけとなったのは、コロナ禍でキャンプと焚き火が大ブームになっており、報告者自身焚き火に魅了されたのと同時に、焚き火には単純な癒し以上の効果があると実感したことであった。しかし、焚き火中の脳波を調べたインパクトファクター付き論文はまだ1報も出版されておらず(医学系論文のデータベースで最も有名なPubMedで、タイトルにbonfire(焚き火)とEEG(脳波)の両方を含む論文を検索した結果が「No results were found.」だった。2022年7月現在)、焚き火の効果については心地良さに関する心理学調査の報告がある程度だった。

 そこで本研究では、焚き火が人に及ぼす脳科学的効果を明らかにし、客観的なエビデンスを創出することを目的とし、実際に屋外で焚き火を行い、焚き火を含む環境の状態、心理状態、脳活動状態を定量的に同時記録し、データ収集を行った。

 令和4年度は、本助成でいただいた予算により、本研究を九州大学構内で継続的に実施することができた。そして予備実験(8回)、焚き火実験(14回)、焚き火なし実験(14回)(全て報告者1名のみを被験者とした繰り返し実験)を行い、世界でも類を見ない貴重な焚き火データ((((物理12項目、心理19項目、脳波19ch✕4帯域)✕7ブロック)✕14回)✕2条件)を収集することができた。これに、数理・データサイエンス教育研究センターから受けた支援も合わせ、ベイジアンネットワークを用いた解析により、焚き火の効果に関する項目間の因果関係が明らかになった。結果の詳細は、来年出版予定の書籍にて発表する。

 本研究で得られた結果は、焚き火を見てどう感じたのかをアンケートやインタビューで調べたものとは根本的に異なり、時々刻々変化する環境、心理、脳波の状態を同時に記録したデータから得られた世界初の結果である。被験者が1名のみで実験を繰り返したことにより個人差は排除されている反面、多くの人に共通した結果であると言うことはできない。そのため、今後は一般の被験者をリクルートして実験を実施し、被験者に共通の性質を調査していく必要があるが、基礎データとして重要な知見を与えることに変わりはない。

 今後は、さらなる基礎研究を展開しながら、社会実装に関して次のような展開を目指していく。まず、コロナ禍や円安・物価高で疲弊し、メンタルヘルスの不調を訴える人またはその予備軍に向けた「焚き火セラピー」の開発である。次に、公園に欧米スタイルの「ファイヤーピット」を設置し、「エビデンスを基にした憩いの場」の新たなスタイルを提案したい。管理人にはアクティブな高齢者を活用し、また廃材を特産薪として商品化することができれば、SDGsの多くの項目に対応できる。そもそも薪燃料は、木が空気中から吸収した二酸化炭素を空気中に放出するだけであるため、カーボンニュートラルだという考え方もある。このように、本研究には多様な展開が期待される。



本研究は令和4年度未来デザイン学センター少額研究助成を受けたものです。