活動若年男性の筋骨格系健康の把握と増進を目指した前向き研究2023.9.1

研究責任者:芸術工学研究院 講師 西村貴孝
共同研究者:芸術工学研究院 助教 Loh Ping Yeap
       東京保健医療専門職大学 リハビリテーション学部 講師 富田義人
キーワード:身体パフォーマンス、非侵襲バイオマーカー、生活習慣とQOL


 本邦では超高齢化社会において、サルコペニアや骨粗鬆症が原因となり、要介護・要支援状態となる高齢者が男女問わず増加し続けている。一方で、高齢者の筋量・骨量を増やすことは難しく、若年時最大筋量、最大骨量を高めておくこと(貯筋、貯骨)が極めて重要とされている。ところが体型維持や美容に気を遣う若年女性に比べて、生活リズムや習慣が荒廃しがちな若年男性は元来ヘルスリテラシーが低い。さらに、COVID-19パンデミックによる生活習慣・環境の変化が、若年者の筋・骨健康に悪影響をもたらした可能性が懸念されている。

 従って、特に若年男性の筋・骨健康の実態や、それらと身体パフォーマンスの相互関連及びその個人差に関与する要因(生活習慣や運動量)を明らかにすることが重要であり、その成果は、いわばYoung Men’s Healthを向上させるような仕組みあるいはデザインに応用することが期待される。以上から、本研究は若年男性約30名を対象とし、ベースライン調査と3年以上の前向き研究によって、生活習慣、筋骨格系指標及び身体パフォーマンスを追跡調査し、それらの相互関連及び経年変化、因果関係までを明らかにすることを目的とした。

 2022年度はベースライン調査として、32名の若年男性の測定を行った。測定項目は身体測定、筋力測定、超音波による筋厚測定及び骨量測定、運動パフォーマンス、尿中ペントシジンとした。ペントシジンは終末糖化産物(AGEs)一種であり、老化、糖尿病、腎不全により高値となるが、筋骨格系機能との関連も報告されている。そこでベースライン調査では、尿中ペントシジンに注目して解析を行ったところ、ペントシジンは年齢や体脂肪率とは関連しなかったが、握力、筋厚、推定基礎代謝量と有意な負の相関を示した。従って、若年男性において、尿中ペントシジンは骨格筋量や筋力の状態を反映していることが示唆された。高齢者ではなく、若年者でこのような結果が得られたことは、非常に重要である。すなわち、若年者でさえ、骨格筋量や筋力が低い者は、様々な疾患の原因となるペントシジンをはじめとしたAGEsの蓄積が進んでいると推測される。従って、筋力の状態が悪くなるような生活を送っている若年者は、そのままAGEsの蓄積が続き、中高年以降にサルコペニアを含む様々な疾患のリスクが高くなることが容易に予想できる。無論、加齢によってもAGEsは蓄積していくが、若年期からペントシジン等の尿中マーカーを例えば定期健診で測定することで、手間のかかる筋力測定等をしなくても、個人の筋骨格系の状態を把握できる可能性がある。あるいは筋トレや運動効果の指標としてもペントシジンが有用である可能性を本研究は示唆するため、個人が運動ジム等で定期的に測定することで、運動によりAGEsが減っていくことを確認することは、様々な疾患の予防に繋がることを実感できるだろう。

 以上から、本研究では若年者において、ペントシジンが肥満指標ではなく、筋量・筋力と負の関連することを示し、若年男性の健康把握において有用であることを示した。

TUGテスト(Timed Up & Go テストの略)
 肘掛のついた椅子にゆったりと腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい早さで歩き、折り返してから再び深く着座するまでの様子を観察する一般的な歩行能力テスト。



本研究は令和4年度未来デザイン学センター少額研究助成を受けたものです。